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【社会契約説】市民革命を現実化してしまった思想

 こんにちは。本宮貴大です。

 今回のテーマは「【社会契約説】市民革命を現実化してしまった思想」というお話です。

社会契約説とは何でしょうか。

簡単に説明します。

社会契約説とは『契約』という言葉が含まれていますが、誰かと誰かが約束をしているのです。

誰と誰でしょうか。そう、国家と国民です。

では、その両者は互いに何を約束しているのでしょうか。

そう、自由と平等です。国家は国民の自由と平等を約束するために権力が与えられ、国民もその権力を国家に委ねているのです。

 

なぜこのような思想が生まれ、当時の社会にどのような影響を及ぼしたのでしょうか。今回は社会契約説の生まれた経緯と、社会におよぼした影響を説明したいと思います。

 

社会契約説とは啓蒙思想自然法思想が融合したことで誕生した思想です。自然法思想とは、人間が生まれながらに持っている自由と平等の精神のことで、この思想を後ろ盾にアメリカ独立革命フランス革命などの市民革命を現実化したのです。

 

  ところで私達は小学校や中学校で理科と社会を学んでいます。何のために学んでいるのでしょうか。

理科は、自然がどのような姿をしているのか。また、どのような法則で動いているのかを知り、その自然を改良・加工し、私達の生活を向上させるにはどうすれば良いか考えるためです。

社会は、人間社会がどのような過程で誕生し、どのように変化し、現在どのようなしくみになっているのかを知り、私達の福祉を向上させるにはどうしたら良いか考えるためです。

 

これと同じ動きが17世紀の世界でも起こりました。

それまでは神がこの世を創造し、神の意図によって自然は動き、神をトップとした完全ピラミッド社会が形成されていました。

しかし、14~16世紀のルネサンス宗教改革を経て、神中心の立場からではなく、人間中心の立場から自然や社会をとらえ直そうという動きが活発に起こりました。

17世紀に入ると自由と平等を人間社会の中に実現しようとする動きが現れました。

 

社会契約説は啓蒙思想自然法思想の2つの概念が融合して出来た思想です。

啓蒙思想とは何でしょうか。また、自然法思想とは何でしょうか。

1つずつ解説していきます。

 

  啓蒙思想とは「眼を覚ます」という意味が込められています。それまで見えていなかったもの、または、見ようとしなかったものを新たに見ようとする考えのことです。

  例えば、不慮の事故で多くの人々が亡くなったとします。従来であれば、「神の深い思し召しがあってのことだ。受け入れなくてはいけない」という迷信によって片付けていました。

 しかし、人間中心になったことで事故の原因を調べて、因果関係を分析し、合理的に追求していこうとするようになったのです。

 このように迷信から眼を覚まし、見えていなかったものが見えるようになったのです。

 

 続いて自然法思想について解説します。

 自然法の対義語は実定法です。実定法とは人間が制定した決まりやルールのことで現在の憲法や法律、条例のことです。

 対する自然法は人間が制定した実定法以前に存在したであろう決まりやルールのことです。太古の昔、まだ国家というものがなく、各地には小国や村が点在しており、それぞれが集団を作って生活していた時代。まだ憲法や法律などは制定されていません。

 しかし、「人を殴ってはいけない」、「人をだましてはいけない」などはあえて憲法で定めるまでもなく、全ての人間が知っている普遍の真理です。おそらくどの村でも共通のルールだったことでしょう。人間には良心が自然と備わっており、してはいけないことくらい生まれながらに知っています。

 

では「自由」と「平等」はどうでしょう。「人間は物事を自分の意志で自由に決めたい」とか「平等に扱われたい」という欲求を生まれながらにもっているのではないでしょうか。 社会契約説では、この自由と平等の精神も全ての人間に備わっている欲求だとしています。もはやそこに理由などありません。

あなたも「物事を自分の意志で自由に決めたい」と思っているだろうし、「平等に扱われたい」とも思っていることでしょう。

 

  しかし、人類の長い歴史の中で、人々が自由で平等になった時期は、本当に最近のことです。それまでは人間は生まれながらに尊卑の差があり、身分をわきまえた職業に就かねばならず、職業を選択する自由も、自分の考えを表現する自由もありませんでした。

 例えば、キリスト教の教えでは、人間は原罪を背負って生まれてくるため、過酷な労働によってその罪を償わなくてはいけないとされてきました。

 他にも奴隷制社会や封建制社会など人間社会の歴史は差別と搾取の世界が広がっていたのです。人間が生まれながらに持っているはずの自由も平等も全て抑圧されていたのです。

社会契約説は、啓蒙思想による神からの解放と、自然法思想という人間が生まれながらに持っている精神を融合させた思想なのです。そして、自由と平等の精神を個人の権利として正式に認め、その権利を保護するのが国家の役割であると唱えています。

 

この社会契約説に基づき、政治や国家はどうあるべきかを3人の思想家がそれぞれの考えを主張しました。イギリス人のトマス・ホッブス(1588~1679)、同じくイギリス人のジョン・ロック(1632~1704)、そしてスイス生まれのフランス人、ジャン=ジャック・ルソー(1712~1788)です。次回以降、この3人の思想を詳しく紹介していきますので、お楽しみに。

 

社会契約説とは当初、彼らが考えたフィクションでした。しかし、こうして人間が考えたフィクションが、実際に当時の人々や政治を動かし、世の中の仕組みを変えてしまいました。いつも私は時代が思想を生んだと言っていますが、今回は逆です。思想が時代を生んでしまったのです。

社会契約説が唱えられた当時のヨーロッパ諸国は強大な権力をもった君主が国を統治する絶対王政が主流でした。この政治形態は「王様の絶対的な支配権は神から授かったものだ。だから王様の好きに国を動かしていいのだ。」という王権神授説によって正当化されていました。

この政治形態が社会契約説という思想が生まれたことで覆された事実は無視することが出来ません。

国家は国民の権利を守るための機関に過ぎず、もし、国家が権力を濫用し、人々の自由と平等を脅かすような真似をしたら、人々はそれらを打倒し、つくり直す権限があるとしました。これを抵抗権として理論化しているのは先述のジョン・ロックです。彼の思想はアメリカ独立革命の後ろ盾となったことは非常に有名です。

 

このように社会契約説という思想は、フィクションでありながら、不思議と人々を納得させ、行動をおこさせてしまうほどの大きな影響力を持っていました。

「人間は生まれながらに自由で平等である」現在でこそ当たり前の思想ですが、当時の人々も絶対王政の政治形態に違和感を覚えた人達もいたのでしょう。自由と平等は人間の本質的な欲求であることは間違いありません。

 

以上

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

本宮貴大でした。それでは。

 

参考文献

考える力が身につく 哲学入門 畠山創=著 中経出版

図解雑学 哲学        貫成人=著 ナツメ社

教科書よりやさしい世界史         旺文社